環境生態学研究室
Environmental Ecology Laboratory
早稲田大学 教育学部 理学科 生物学専修
早稲田大学 先進理工学研究科 生命理工学専攻
Research topics
バイオチャーを用いた炭素隔離
植物の光合成によって有機物として固定された炭素の多くは落葉や落枝、倒木となって土壌に入り、比較的短期間のうちに土壌微生物によって分解されて二酸化炭素として大気に戻されます。この過程で放出される二酸化炭素はもともと光合成によって大気から吸収された炭素であるため、大気中の二酸化炭素濃度には影響を及ぼさず、「カーボンニュートラル」であると表現されます(植物を材料とした燃料である薪や木炭を燃焼させて二酸化炭素を放出しても「カーボンニュートラル」です)。
これに対して、植物の有機物残渣(落葉や落枝、間伐木など)を、微生物にとって分解しにくい形態である「炭」にして生態系に戻すことで、土壌の中に長期的かつ安定的に炭素を閉じ込めようという考え方があります。また、この時に用いる炭は高温でガチガチに焼いた備長炭のような炭ではなく、比較的低温条件下で作り出した、"バイオチャー"(バイオ炭とも呼ばれます)が用いられます。こういった炭は土壌中での反応性に富み、土壌の物理化学的環境の改善や、ひいては植物の成長を促進する効果が期待できます。難分解性のバイオ炭そのものによる「直接的炭素隔離」と、土壌改良・樹木成長の促進を通じた炭素固定の増加という「間接的炭素隔離」により、最終的に二酸化炭素として大気中に放出される二酸化炭素の量を、植物が光合成により吸収した炭素量よりも小さくする、「カーボンネガティブ」なしくみを実現できる可能性があります。
バイオ炭を用いた炭素隔離のイメージ.カーボンニュートラルからカーボンネガティブへ.
我々は、本庄サイトの森にこのバイオチャーを散布し、長期的なモニタリング研究を行っています。バイオチャーの散布量を変えた実験区を設け、生態系の主な構成要素である植物、土壌、微生物群集の変化を詳細に調べています。加えて、生態系内の炭素・窒素の動態を調査し、バイオチャーを散布することで生態系全体の炭素・窒素循環がどのように変化するのか、その結果として炭素隔離効果がどれほどあるのかについて解明を進めています。本研究は当研究室だけでなく、神戸大学、岐阜大学、東京都立大学、滋賀県立大学、玉川大学、国立環境研究所などの研究者・研究室と共同で実施しています。